あの日



宿を後にし、朝日が昇る前にも関わらず、人目を避けるよう、静かに街中へ溶け込んだオリビアを、その男は待ち伏せしていた。


サハールから砂漠へ抜ける最後の小路は、公道だというのに、その砂の侵入を避けるためか、驚くほどに狭い。

人がすれ違えるかどうかの道幅である。

その長い石畳を、彼女は、足音すら潜め歩いていた。


周りも序序に、朝の光に包まれて来て、何とか無事に砂漠へと出られる様で、彼女はホッとした表情を浮かべる。

が、

その、次の瞬間、
彼女の前に、その男は現れた。

石畳に反響する靴音が、前方より、迷いなくこちらに近づいてくる。

荒々しい削りだけど
整った顔立ち。
なによりも、自分を見つめるブルーの強い瞳。

ブロンズの髪は、露で濡れ、毛束が数本額にかかり艶やかである。


彼女は、思わず歩みをとめ相手に魅入ってしまう。

そんなオリビアの元へ、男は、一歩、また一歩と迷う事なく近づいてくる。

二人の距離が、狭まるのを、彼女は、吸い込まれる様に相手を魅入ったまま、立ち尽くしていた。