私を引き寄せたのは紛れもないこの世界の魔王。
一度ならず二度までも漆黒の六枚羽に守られる。
「イヴ、一人であの部屋から出てはいけないよ。」
ラファエルがかがみ、私の耳元でそう言う。
それを見た悪魔がキッと睨み「ルシファー様ッ!」と叫ぶ。
自分が無視されていることが腹立たしかったようだ。
ラファエルは呼び声にしぶしぶ応じるように、視線を前にやる。
「誰がここへ来てもよいと言った?アメリア……」
恐ろしく冷たい声。
何の感情もないその声色は、聞いているだけで凍りつきそうなほど。
アメリアと呼ばれた悪魔も、見る見るうちに顔色が変わる。
「例え公爵家の娘と言えど、俺の領域へ入ることは禁じたはずだ。」
静かに、けれど確実に怒りを含んだ声にアメリアがビクリと震える。
しかし、アメリアは何かを思い出したかのように慌てて口を開く。
「けどルシファー様、この女はルシファー様のお部屋で一夜を明かしたと言います。城へは私以外の女は寄せ付けなかったのに。」
「イヴに誤解を与える様な物言いはやめろ。」
誤解もなにも、初めから何かあると思っていたから驚かないのだけど。
「事実ですわ。私は貴方の許嫁ですもの。」
フッと勝ち誇ったような笑みを私に向けるアメリア。
ラファエル様とアメリアは許嫁だったのね。

