「もう何もしないよ」

儚げで寂しさを湛えたアメジストの瞳にイヴは少し罪悪感を覚えた。



(じ、自業自得よ…だって出逢って間もない私にく、口づけしたんだから)


イヴは唇に押し当てられた感触を思い出して顔を赤くする。異性に触れられることも初めてなら、口づけをされるのも初めてだった。顔も名前も知らない人から「愛している」と言われ口づけをされたのだから、そんな態度をとったとしてもおかしくはない。



(そうよ…私は悪くない)


そう思うのだけど、ラファエルの傷ついた表情を見た瞬間ズキンと胸の奥底が痛んだ。



(これじゃなんだか拒絶した私の方が悪いみたい)


何故かばつの悪い心地になっていると、ふわりとラファエルの大きな手がイヴの頭にかかる。イヴが怯えも拒絶も見せなかったことに、ラファエルは明らかにほっとした表情を見せ、ゆっくりと髪を梳く。



「安心して休みなさい。朝起きた時には聖力も回復しているだろう」

規則正しく頭を撫でる大きな手。その心地良さに意識がまどろむ。



これからどうしよう。天界にはもう帰れないのか。

けれど、天界へ戻るにも聖力を取り戻してからだ。今は休むしかない。天界へ帰る方法はそれからだ。

そんなことを考えながらイヴはいつの間にか意識を手放した。