「ひどい言われようだ。そう思わないかネーナ」
「はい!ハデス様」
ハデスのそれが演技だとは思いもしないネーナは即答する。ネーナも羽がついていないので分かりにくいが、ハデスについて回っているということは冥界の住人なのだろう。
「お前たちが来るときはろくなことがない」
ルーカスが疲れた様に大きな溜息をつく。
「そういえば、フェンリルがルシファー様の前に現れた時もここへきていましたね!」
ネーナのその言葉にピクッと耳を立てるルーカス。
「そうだったな。まだ小さかったフェンリルに懐かれずに噛みつかれたバカがいたな」
今度はヒクッと口を震わせるルーカス。
「悪魔なのに魔獣よりも魔力が低かったのだ、当たり前か」
「煩いッ!あの頃の俺はまだ悪魔として未熟だったんだ!」
してやったりと笑うハデスに、ルーカスは聞いてもいない言い訳を並べる。
「今もフェンリルに勝てるか怪しいところだ」
「なッ!」
図星だったため顔が赤くなった。口をパクパクとさせながら反論の言葉を上げようとしたルーカスを制すラファエル。
「そこまでだ」
「けどッ!ルシファー様!」
収まりのつかない様子のルーカスがラファエルに懇願するような瞳を向ける。
「怒ってると幸せが逃げていくよ、ルーカス」
怒らせた本人が言うものだから、ますますややこしくなる。人をからかう事に関してはガブリエルに並ぶかもしれない。
ルーカスがヒクヒクと口元を釣り上げたかと思えば、スッとラファエルの手がイヴの両耳を覆う。
ルーカスが大きな口を開けてハデスに何か言っているが、ラファエルの覆った手で良く聞こえない。おそらく部屋中に響き渡るほどの大声を上げて怒鳴っているのだろう。それでもニコニコとルーカスが怒れば怒るほど面白そうにするハデス。
パッとラファエルの手が離れて行った時には、真っ赤な顔でハァハァと肩で息をするルーカスと、「はいはい」となだめるハデスの声が耳に入った。

