孤高の天使



「良かった……」

ラファエルはそう言って心底安堵したような表情をして抱き寄せられる。なすがままのイヴの体はラファエルの体にもたれかかり、力強い腕に抱きしめられた。


「なっ……ラ、ラファエル様っ!」

イヴは顔を真っ赤にして上擦った声を上げる。ラファエルの肩越しに見える皆の表情はそれぞれで、ハデスはと口元にニヤニヤと笑みを浮かべ、少女は黄色い声を上げながら喜び、ルーカスは口を開けて固まっている。恥ずかしいことこの上なかった。

しかし、当の本人であるラファエルは各々の反応など気にする様子もない。



「あのっ!み、皆が見てます……」

イヴはごにょごにょと恥ずかしさで消えそうなくらい小さな声でラファエルに訴えた。すると、不満げな顔でやっと離してくれ、ハデスたちに振り返るラファエル。


「ハデスこの借りは必ず返させるからな」

「俺は何もしてないんだけどね」

やれやれと手を上げてそう言うハデス。



「俺を煽って満足しただろ。用が済んだのならもう帰れ」

「お前は本当に短気な奴だ。そんなにカリカリしていると早死にするぞ」

「お前に言われたくない」

ラファエルとハデスのやり取りは絶妙なテンポで進む。


「それもそうだ。冥府の住人は“死”などありはしないからな」

「冥府……?」

ククッと喉を鳴らしながらハデスが口にした言葉をイヴは繰り返すように呟く。


「はい!ハデス様は冥界の王なんですよ」

「冥界の王…ってあの!?」

冥府の王とはつまり、死の世界の王。自身の肉体は衰えることなく、不死が約束されるが、その対価として人や天使や悪魔全ての者の死を迎え、送り出さなければならない。イヴは本で冥王を知った時、なんと孤独な王なのだろうかと思った。


「冥王が何故ここに?」

「ただ油売りに来てんだよ」

ルーカスがケッと言わんばかりに吐き捨て、嫌な顔をする。しかし、ルーカスも心の底から嫌っているわけではなさそうだ。それを分かっているのか分かっていないのか。ハデスは大げさに頭を押さえて悲しむそぶりを見せる。