孤高の天使



「これが本当に“イヴ”なのか。“イヴ”だとしたら何故、神が俺の目を盗んで…「ハデスッ!」

ラファエルの怒声とともにビリッと空気が震え、天井まで届かんがごとくラファエルの六枚羽が現れた。

瞬間、闇の粒子が拡散し、一気に闇が濃くなった。瞬時にして部屋を覆うほどの闇の粒子にも涼しそうな顔をするハデスに対し、ルーカスと少女は眉を寄せながらなんとか闇の粒子に耐えていた。

しかし、天使であるイヴにとって闇の粒子は重く、眩暈を覚えながら息苦しさに喘いだ。




「ラファエル…様………」

「ッ……!」

肺が押しつぶされそうな感覚に陥りながらも声を絞り出すと、ラファエルは我に返ったように目を見開く。同時に張りつめていた闇が霧散するように消えた。息苦しさは無くなったものの、イヴの体力は思いのほか奪われており、糸が切れた人形のように倒れる。

ぐらりと回る視界にイヴは石畳の床にぶつかることを覚悟して目を瞑った。



「イヴ!」

焦ったような声が聞こえた瞬間、ふわりと体を受け止められる。恐る恐る目を開けばそこはラファエルの腕の中だった。ラファエルは酷く焦っており、同時に心底安堵した。



「気づくのが早くてよかったな、ラファエル。天使にはお前の闇は毒だぞ」

横でハデスが挑発するような笑みを浮かべるが、ラファエルの耳には届いていなかった。


「すまなかったイヴ」

ラファエルはハデスを無視して壊れ物を扱うようにイヴの体を抱き上げる。イヴは恥ずかしかったが、体に力が入らなかったため成すがままにされるしかなかった。



「体は大丈夫か?どこか痛むところはないか?」

「大丈夫です…」

本当は少し辛かったが、口から零れた言葉は思いとは反する答えだった。ラファエルがあまりにも傷ついた顔をするので、反射的にそう答えてしまった。

ラファエルと“イヴ”との過去に何があったかは知らないが、ラファエルが“イヴ”のことを心の底から愛していることが伝わってきた。きっとラファエルにとっては“イヴ”を自らの力で危険に追いやったことが許せなかったのだ。

だから“イヴ”の代わりにラファエルを安心させてあげたいと思っただけで、「大丈夫」とただ一言呟いたのに。