「私を行かせてください」
最後の願いも虚しく、アザエルはあざ笑った。
「“懇願”ですか。貴方には失望させられました。元大天使だから少し期待していたのですけど。結局のところ貴方に私を滅する覚悟などない。放っておけばずっとそうしているでしょう」
聖剣の切っ先をアザエルに向けて対峙した私に躊躇いもなく近づき、触れそうな距離まで来たアザエル。
ここを通してしまえばラファエルが危ないとわかっていても聖剣を持った手は動かないばかりか震えている。
こんな危機に直面しても傷つけることは出来ないと思うのは甘い考えだろうか。
けれど過去にどんな罪を犯していても、それが傷つけて良い理由にはならない。
ましてやアザエルの過去を知ってしまった後では尚更この剣を突き立てることなどできない。
カタカタと小刻みに震える私の手を見て、アザエルは溜息を吐いた。
「興がさめました」
そう言って私の横を通り過ぎていくアザエル。
アザエルは言葉通りグッと押し黙った私などいないかのように鏡の中を見つめて口を開く。
「私は最期の仕上げをするとしましょう」
「最期の…仕上げ?」
振り向き、不安げな声を漏らした私にアザエルは鏡の中を見たまま応える。
「意識を闇に取り込まれた今の隙に再起不能に陥れるのですよ。前回のように怒りを基としてこの世にとどまってもらっては困りますからね。まぁあの状態ではこちらに戻っては来ないでしょうが、念のためです」
アザエルは淡々と言葉を並べながらも自分の手首に爪を宛がいピッと横に引く。
じわっと浮き上がった血を指ですくい、宙に文字を書いていく。
文字は解読できないが、それがラファエルを再起不能に陥れるための術式だということは伝わった。

