孤高の天使



『こうも私の思い通りにいくとは思わなかった。イヴが再天したのは大きな誤算だったが』

『何を言っている』


ラファエルはミカエルを睨みながらも訝しげな表情をする。



『数百年前、お前を陥れたのは神ではなく私だったんだよ、ラファエル』

『ッ…なんだと!?』


人気のない居住区にラファエルの驚愕した声が響いた。

ミカエルがこうもすんなりと真実を明かすとは誰が想像しただろうか。

アザエルを除いた全ての者がミカエルの言葉に驚いていた。



『私は昔からお前が気に入らなかった。天使だと言うのに羽は悪魔を象徴するような黒、神殿での礼拝には来ず、ただ長い時間をいたずらに過ごすお前が何故神候補になどなるのかと』


長年の恨みつらみを吐露するように話すミカエル。

その表情は次第に険しくなり、顔に皺を刻んでいく。



『私は毎日欠かすことなく神への礼拝をして、大天使として天界を統治する責務を果たしてきた。それに比べてお前はどうだ。毎日毎日、大天使としての務めを果たさず自分の好きなようにふらふらとしていただろう。そして神もまた天界の異端児だったお前を傍に置き続けた』


最初の内はまだ冷静だったものの、ミカエルの口調は捲し立てるように早く、荒っぽくなっていった。

興奮して荒らいでいた肩を落ち着かせ、ミカエルは生気が抜けた様に口を開く。



『次の神を決める時までには改心してくださるだろうと思っていた。だが神は裏切ったのだ…』


それは今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

裏切られたというには少々大袈裟な言葉だったが、ミカエルにとってはそう感じられたのだろう。

どれだけ努力しても陶酔するほど崇めていた存在の一番になれないという感覚に。