「お前の能力自慢なんて聞いてねぇ…」
普段の明るい声からは想像できない程低い声でルーカスが呟く。
「俺たちはルシファー様の下へ行くんだ」
「心配せずともいずれ貴方の敬愛する魔王様の元へ連れていってあげますよ。けれど今はまだその頃合いではありません」
「ラファエル様は神殿に向かっているのですね」
こんなことをしているうちにもラファエルは離れていってしまう。
そして闇は更に濃密に広がり、やがて聖なる母樹のある場所まで広がるだろう。
「あの方がそんなに心配ですか?」
「当たり前です」
裏があると分かっていてニヤリと笑うアザエルに間髪入れずに答えた。
「では貴方たちにも見せてあげましょう。ちょうど今良いところでしょうしね」
まるでショーの幕開けをするようにわざとらしく腕を広げ、宙に手をかざすアザエル。
するとそこに以前ルーカスの様子を映していた鏡が現れる。
鏡を初めて見たルーカスは訝しげな表情をしていたが、鏡に映し出された光景にハッと目を見開いた。
「ルシファー様ッ!…とミカエル様?」
鏡の中にいたのは紛れもなくラファエルとミカエルであり、その後ろの風景には見覚えがあった。
白い塗り壁の建物が建ち並ぶそこは上位天使の居住区だった。
天界の異常を察知して避難したのだろうか、他の天使の姿は見あたらない。
『ミカエル…』
ラファエルはミカエルを睨むような視線で見据える。
対するミカエルは不自然なくらいの笑みでラファエルを迎えた。

