漂っていた闇の粒子が意志を持っているかのように一点に集まり、その塊は人型を成してゆく。

そして完全に人型の輪郭を象った瞬間、パンッと弾けるように闇の粒子が散り、中にいた人物が明らかとなる。




「アザエル!」


敵意むき出しのルーカスの声が現れた人物に向けられた。

まさかこんなにも早く見つかってしまうとは…

ゴクリと喉を鳴らし緊迫の表情でアザエルを見れば、私の視線に気づいたアザエルがフッと笑う。




「貴方の気配があると思って来てみましたが、やはりあの結界を抜け出してきましたか」


やはりとはどういうことだろうか。

聞き返そうと思ったがアザエルはすぐに私からルーカスへ視線を移した。




「貴方も天界へ来ていたんですね。もう少し操られたままでいて欲しかったのですが」


本音を隠そうともしないアザエルにルーカスはフンッと挑発的に鼻を鳴らす。




「残念だったな。普段からそう大人しい質ではないんでね、気の利いた仲間が助けてくれたのさ」

「まぁ良いです。貴方の術が今更解けようと関係のないこと。あの方を十分煽っていただいたことを感謝したいくらいですよ」


皮肉を込めたアザエルの言葉にピクリと反応するルーカス。

アザエルは元来気の長い方ではないルーカスを挑発する方法を心得ていた。

眉をしかめたルーカスにククッと歪んだ笑みを浮かべて「それに…」と続ける。

次に見据えたのは私だった。




「ちょうど貴方をお迎えに上がろうと思っていたところですから」

「ッ…!」


不意に視線を向けられたことにドキリと心臓が跳ね、思わず身を引いてしまう。

今ならアザエルの思惑が分かるだけに私を迎えにいこうとしていた目的に身震いした。

それを察知したルーカスはフェンリルの背を離れ、私とアザエルの前に立ちはだかる。