フェンリルとラバルの移動速度はほぼ同じ。

どちらも高等な魔獣、聖獣であるため乗せている者たちの限界を超えない程度の速度を保ち走り続ける。

それでも体にかかる風圧は相当のもので目を開けることもできない。

どこを走っているかもどのルートを通っているかもわからないまま暫く走っていると、ラバルの足が止まった。





「イヴ…」


フェンリルも止まったのだろう、ルーカスの声が耳に届く。

どこか力の抜けた声に導かれるように目を開けば、そこには目を疑う光景が広がっていた。





「ここは本当に天界か?」


ルーカスがそう言うのも無理ない。

本来ならば光の粒子が舞い、綺麗な花が咲きほこっているはずの天界はなかった。

花は生気を失い地面へ頭を垂れ、闇の粒子がうっすらと舞うその光景はまるで魔界にいるようだ。

聖なる母樹は中心部から離れているため何とか無事のようだが、それも時間の問題だろう。



神殿を中心として濃い闇の粒子が溢れ、やがてここも浸食されていく。

聖なる母樹だけは守らなければならない。

あの樹は神の命と繋がっている樹でもあるのだから。




「先を急ぎましょう。手遅れになる前に止めなきゃ」


ルーカスに目配せし、二人で頷いた時。





「邪魔はさせませんよ」


エコーがかかったように耳に響いた低い声が耳に届く。