孤高の天使



「手を取れ、イヴッ!」


ルーカスが穴から手を離してこちらに差し出した瞬間、開いていた穴が一気に狭まる。

結界を破って開いていた穴は自己修復をしようとしているのだ。




「クッ…早く!俺たちではこれ以上この結界を開いていられない!」

「神様!」


“俺たち”という言葉に首を傾げたものの今は気にしている暇もなく、同じく空を仰いでいた神へ手を差し伸べる。

しかし神は私の手を見て一瞬迷ったものの、すぐに首を横に振った。




「私はいけません」

「何故…きゃっ!」


不意にふわりと浮く体。

それが神の意思だということに気付くのには時間がかからなかった。

地面から足が浮き、咄嗟に神の手を取る。





「一緒にここを出ましょう」

「私が行けばそれこそアザエルの思惑通りとなります。それに今の私があの場に行ったとしても足手まといでしかありません。そればかりか、ラファエルの感情を逆撫ですることでしょう」


神は私の手に自分の手を添えて悔しそうな顔でそう言った後、フッと自嘲気味に笑って口を開く。




「否、今の私でも過去の私でもラファエルを止めることは出来ないでしょうね。いつだってラファエルを諌め、叱り、冷めた心を温かく包み込むのはイヴ、貴方しかいないのですから」


そう言って神はふわりと微笑み繋いだ手を高く掲げる。






「行きなさい、イヴ」

「けどッ…」




「イヴッ!」


神の手を離せないでいると、ルーカスの苦しそうな声が届いた。

見上げれば先ほどよりも穴が小さくなっている。