その音は次第に強くなり、どこまでも突き抜けているはずの空は水面が揺れるように歪んだ。
そして次の瞬間――――
灰色の空が大きく波打ったかと思えば、外側から押される様に何かが迫ってくる。
まるで空が柔らかな布であるかのようにへこみ、こちらへ伸びてきて次第に形を成していく。
細長く伸びてきたそれは“手”だった。
その手は粘着質な空を切り裂くように五本指を立て、指先から手首へ、手首から肘へゆっくりと伸びてきた。
時折バチッと音がするのは結界に阻まれているからだろうか、音がする度にその手がビクリと震える。
その手は結界に阻まれながらも爪を立て、偽りの空であった灰色の粘膜を突き破った。
粘膜が取れ肌色の腕が肘まで現れたかと思えば、僅かに開いた隙間からもう一方の手がすかさず差し込まれる。
そして、両腕でこじ開けるようにして僅か数センチだった穴を広げていく。
しかしその手は一つではなかった。
じわじわと広がる穴の縁に一つ、また一つと手が添えられ、各々の手の指先に力が入る。
それは示し合せた様に動きを止め、次の瞬間バッと穴が大きく開いた。
「イヴッ!」
開いた穴の向こう側から呼ぶ声にハッと息を飲んで驚愕した。
「ルーカス!?」
穴の縁を抑えながら私の名を呼んだのは魔界にいるはずのルーカスだった。
ルーカスは私の戸惑いに反応している暇もないようで、歯を食いしばりながら片手をこちらへ突き出した。

