次に意識が覚醒し目を開いた時には、あの大樹の根元にいた。

現実世界に戻ってきたのだ。





「これが貴方の消えた記憶の欠片です」


私の手を取っていた神が伏せていた目を開く。

そして、神は私の方を見上げてハッと目を見開いて眉を寄せた。



「イヴ…」


悲しみを含んだその声にやっと気づく。

自分の頬に流れる涙に…

気づいた瞬間、先ほど見た過去の記憶を思い出し、更に涙が溢れた。

涙を流さずにはいられない。


だってラファエル様はずっとあの過去を一人で背負ってきたということでしょう?

数百年もの間ずっと、ずっと独りで…

なのに再会した私には何も言わなかった。





『愛している…イヴ…もう離さない』


出逢ったなり、切ない顔でそう言った貴方に私は混乱した。

私は貴方なんか知らないと言ったら貴方は悲しそうな顔をして『俺を忘れたのか?』と言っていた。

あの時どんな気持ちでそう言ったのだろう。

どれほどの悲しみを抱いていたのだろう。

記憶を無くした私に自分という存在を忘れられていたのに、貴方は心に傷を負いながらも言った。





『俺だけが知っていればいい。君は何も知らなくていいんだ、イヴ』


思えばそれはラファエルの優しさ。

神が言った“優しい嘘”だったのだ。

私は貴方の優しさに甘えて真綿に包まれるように守られてきた。