「そうでうすね。ラファエルが貴方に自ら“あの過去”を貴方に話すことなどありえませんね」
独り言を言うようにボソリとそう言った後、私の方を見上げて柔らかく微笑む。
「ラファエルが自分を悪魔だといったのなら、それは嘘です。貴方を守るための優しい嘘…」
少女は淡くクリーム色に染まった虚空を仰ぎ、どこか遠い先に思いをはせながらそう言う。
少女の表情から良くない事だと言うことは分かる。
だからこそラファエル様も私に教えようとしなかったのだから。
けど私はもう逃げないと決めた。
“イヴ”から、そして私の過去から。
「教えて下さい。私とラファエル様に起こった出来事を」
あの“イヴ”が本当に私なら、私が記憶を失った理由が分かるはずだ。
そしてラファエルが堕天した理由も……
「私は知りたいんです。私の過去を。ラファエル様が私に嘘をつかなければならなかった理由を」
心の奥底で私は私の過去を知らなければならないのだと思っていたけれど、記憶を探るたびに起きていた頭痛を理由に遠ざけていた。
けれど、ラファエルのあの悲しげな表情を見ていて、もう遠ざけることは出来ない。
私だけ知らないのはだめ。
守られているだけは嫌だ。
そんな想いを言葉に乗せて少女と向き合う。

