「湖?」


霧で良く見えないが足元には間違いなく水があり、向かう先は湖のように広がっていた。

そして視線を上げていくと、その向こうには聖なる母樹を思わせるような樹がそびえ立っていた。




「大丈夫ですから、こちらへお出でなさい」


湖に足を踏み出すか否か迷っているところに、またあの声が響く。

その声は間違いなく湖の向こう側、樹の方から聞こえてきた。

意を決して湖に足を踏み入れ、慎重に歩いていく。

湖はそれほど深くなく、ひざ下くらいの浅瀬を歩いていくとやっと陸地へたどり着いた。






「どこにいるんですか?」


再び声を張り上げれば「ここです」と、今度は木霊することなくしっかりと耳に届いた。

声のした方は樹の根元の方で、霧の向こうにぼんやりと小さな影がある。

土の感触を足で確かめながら少し高い丘へ上がって行くとだんだんと霧が晴れていく。

すると、私を呼んだ声の主が樹の根元に座っていた。






「よくおいでになりました」


その話し方に反して見た目は少女のように幼い容姿をしている声の主。

肌は透き通る様に白く、見事な金色の髪は長いどころか地面を這うようにして伸びていた。

ちょうど俯き加減でその髪を梳いていた少女が手を止めてゆっくりとこちらに視線を移す。




瞬間…――――





「イ…ヴ……」



少女は驚愕に目を見開く。

大きく丸い瞳は人間界で見たような鮮やかな青だった。