なのに何故……?

しかし、それを聞くより前にアザエルが立ち上がった。





「私はそろそろいかねばなりません」

「ッ……!」



バッと弾かれたように顔を上げる。

アザエルを行かせては駄目だと直感が言っている。



それはアザエルの“欲”をまざまざと知らしめられたからで…



行かせてしまえばアザエルの言葉通りになってしまうのではないかと言う漠然とした不安があった。

カチャと手枷となっている鎖を持ち上げて、鏡を覗きこんでいるアザエルの後ろでそっと立ち上がった時。





「そんな状態でも逆らおうとするのですか。無駄と分かっていても動くなど“愛”ですね」


愛から一番遠い存在であろうアザエルが鏡を覗きこんだまま感傷深そうな声をこちらに向ける。




「安心なさい、貴方には特等席で見ていてもらいます」

「え…きゃっ」


アザエルの声と共に何か見えない力にグイっと引っ張られ、地面から体が浮く。

そして、こちらを振り向いたアザエルの前まで移動させられる。





「それではイヴ、貴方の力を借りるまで暫しお待ちを」


そう言って手を額にかざされた瞬間、またあの感覚が体を襲った。




「待って!」

「向こうで愛おしい人が苦しむ姿を手をこまねいて見ていてください」


アザエルが一層歪んだ表情でそう告げた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。