バサッ…――――――

沈黙を切り裂くように聞こえてきた羽の音。

私たちはその音を辿り、部屋の中央に目を向けた。



目に入ったのは艶やかな6枚羽を広げて部屋に降り立つ漆黒の悪魔。

天窓から降り立つその姿は息を飲むほど綺麗だった。





「ルシファー様」


ルーカスが助けを求める様に駆け寄ったが、名を呼ばれたラファエルは硬い表情をしたままルーカスを手で制する。

そして、大きな6枚羽をしまい、私の横たわるベッドに近づく。





「気分はどうだい?まだ辛いか?」


私の視線に合わせる様に座ったラファエルの表情は曇っている。

アメジストの瞳はくすみ、疲労の色が見えるのは気のせいではないが、私が目を覚ました時よりは幾分ましになった方だ。

ルーカスの話では私が眠り続けていた2日間、ラファエルはずっと私に付き添ってくれていたらしい。

そんなラファエルに心配をかけるわけにはいかないから…




「大丈夫です…」


どう見ても大丈夫ではない状況だったが、そう言わずにはいられない。

しかし、それが嘘だと言うことはますます眉を寄せたラファエルにも分かっていた。




「大丈夫じゃないだろ…」


私たちに痺れを切らしたルーカスがぼそっと呟くそうにそう口にした。

そして、どこか苛立ちを込めた声色で口を開く。



「ルシファー様、イヴを天界に帰した方が良いのでは?」


それは私とラファエルがずっと避けていた言葉だった。