次に目を覚ましたら私の失われた記憶を教えてもらう。


そう心に決めていたのに…――――






「イヴ、体はどうだ?」


ベッドに深く身を沈めた私に問いかける声。

天蓋の幕を持ち上げた隙間から差す部屋の灯りに目を細め、ゆるゆると視線だけを上にやる。




「ルーカス……」


ぼやけた視界に特徴的なエメラルドグリーンがぼうっと浮かび、その名を呼んだ。




「まだ悪そうだな。これで3日目だぞ」


はぁ…と重い溜め息を吐きながらそう言うルーカス。

正確には体調が悪くなってもう5日目だった。

ラファエル様に眠りにつかされた後、私は2日間も眠り続けたらしい。

やっと目を覚ました時には体を動かすのが酷く億劫で、起き上がることすらできず今に至る。

寝込んでからは時折こうしてルーカスが私の様子を窺いに来るのだが、体調は一向に回復の兆しを見せず、むしろ悪くなるばかり。





「ラファエル様が…私の聖力がだんだん弱くなってるって…」


私にも分かる…天使の生命の源である聖力が弱まっていることが…




「やっぱりそうか。まぁでも、魔界で天使が生きていられるだけでも不思議だったんだ。結局、悪魔化もしていないままだろ?」


ルーカスの問いにコクンと頷く。




「ったくどうなってるんだ」


アメリアさんやルーカスの口ぶりでは悪魔化とは魔界の粒子を取り込み、羽が黒くなると言う事らしい。

ルーカスは私の羽が白いままで聖力が弱まるばかりだと言うことに驚いているようだ。