確かにあれはとても怖かったし、思い出すと足がすくむけど…

涙の理由は他にあることをラファエル様はきっと知らない。

だけど、その理由を口に出来ない…

伝えようとするとストッパーがかかり、出かかった言葉を飲み込んでしまう。






「大丈夫だ。天界へ帰れば少なくともこんな目にも遭わない」

「ッ………」


伝えたい言葉の数々がポロポロと涙となって頬を伝う。



違うのラファエル様……




“天界へ帰す”



貴方は約束通り決断してくれた。

この言葉を待ちわびていたはずだったのに、胸を巣食うのは嬉しさより悲しさだった。

心のどこかで“イヴ”は手離さない。

魔界に引き止めてくれると思っていた。




けど……



「治療は終わりだ」


そう言ってラファエルは立ち上がる。

その瞳にはもう私は映っていなくて…