「ッ……この湖、夢の中の湖にそっくりなんだわ」

やっと思い出したのは毎夜見る夢の光景。この湖は夢の中で訪れる場所にとてもよく似ていた。違うのはラバルがいることと湖面に聖なる母樹の花びらが浮かんでいることだけだ。

なんだか懐かしい気がするのはいつも夢の中で見ているせいなのか。不思議に思いながら湖の畔に座りこむ。




(そういえば…夢の中でもあの少女はこんな風に座っていたっけ)


イヴは毎夜繰り返し見ている夢の中の情景を思い出す。この後、名前を呼ばれて振り返る。そして夢はいつもそこで終わってしまうのだ。

夢の中とそっくりの湖に来ても何も思い出せず、イヴは途方に暮れる。

やっぱり思い出さないほうが良い記憶なのかもしれないと思うのは、自分の前世と関係があるかもしれないからだろうか。



前世の記憶というものは普通、天使として生まれ変わった時に持ち合わせているものだという。

しかし、同じく聖なる母樹から生まれたイヴには前世の記憶がすっぽりと欠落していた。




(私の前世は何だったんだろう。あの夢と関係あるのかな…)


夢の先を思い出そうとすると雲がかかったように頭の中が霞がかったように真っ白になる。そして、きゅっと胸の奥底を締め付ける様な切ない感覚がこみ上げる。

消えた前世の記憶と夢の中の少女とは何かしらの因果があるはずだ。そうでなければ切なく胸を締め付ける苦しさも、自分の意思に反して流れる涙に説明がつかない。





そう思った時だった…――――





“イヴ……”



「え……」

突如聞こえた声。頭の中に直接響く呼び声にバッと立ち上がり周囲を見るが誰もいない。

突然立ち上がったイヴに、水と戯れていたラバルが頭を持ち上げてこちらを見る。