「フェンリル…ゆっくり降下しろよ」

「嫌…ラファエル様ッ……」


気づいたら私の口からはそんな言葉が出ていた。




何が嫌なの?

何故引き止めるの?



心の中ではもう一人の自分が問う。

けれど、そんなもう一人の私に反して、咄嗟にフェンリルの背を離れて手を伸ばす。



グラッ…―――――

すると、当然のごとくバランスを崩した体が傾いた。



「ッ……イヴ!」


焦った声とともに大きくて暖かい腕が伸びてくる。

ふわりと支えられた腕の中、焦りの色を滲ませたアメジストと目が合った時。



胸の奥底にあったのは…紛れもない“安堵”

しかし、それは一瞬の事だった。

ラファエルがふわりとほほ笑んだかと思えば、スッと目の前にかざされる大きな手。




「目を閉じて。地上に降りるまで眠るんだ…イヴ」


かざされた手にハッと息を飲むも、すでに遅かった。

心地よいラファエルの声とともにゆるりと夢の中へ誘われる。

抵抗しても否応がなしに重くなる瞼。

気怠い重さを感じながらも手を伸ばした。




「や…待って…ラファエルさ……」


しかし…―――――

言葉は最後まで紡がれることはなく、意識を手離した…





「そう…良い子だ。せめて夢の中では幸せな時を……おやすみイヴ」


ラファエル様が切なく微笑みながら手離したのを知らずに―――