柏木さんが行ってしまって、用が無くなかったのか裕二もくるりと向きを変えた。
「……戻るか。お前は?」
「俺はついでだからトイレ」
俺は親指でトイレのドアを指し示すと、「分かった」と言って裕二も戻っていった。
ふぅ
ため息を吐きながら腕を組み、廊下の壁に背をもたれさせる。
俺ってホントに柏木さんの眼中にないみたいだ。
あんな女初めて……
俺はない、って言われたし、「合わない」とも「疲れそう」とも言われた。
俺の何がいけないんだろ?
「トイレ……ここ男女兼用で一個しかないんですよ。不便ですよね」
ふいにもう一人先に待っていた女が声をかけてきた。
短いスカートに派手目な化粧と髪。
歳は……柏木さんの少し下な気がした。
「え?ええ、そうですね」
女はじっと俺を見て、ほんのちょっと顔を赤くした。
う~ん……柏木さんもこれぐらい分かりやすい女だったらいいのに。
「目、綺麗ですね。自前ですか?」
「目?……ああ。うん、自前(笑)。キミも綺麗だね。カラコン?」
店内はトーンダウンした少し暗めの照明だってのに良く分かったな。
そう言えば柏木さんに、目の色を指摘されたことはなかった。
それ程までに俺に興味がないってか?
「うん。カラコン。ハーフですか?」
「いんや。母方にアメリカの血が混じってる。四分の一だよ」
俺はにっこりスマイルを浮かべた。