「別れて数ヶ月は、あたしどうしても寄りを戻したかったから連絡して、向こうも会ってくれました」
話を再会させた緑川は苦笑を浮かべた。
「と言っても付き合ってくれるわけじゃなかったけど」
緑川も緑川なら男も男だな。付き合う気がなけりゃ会うべきじゃない。
「そのときはもちろん体の関係は持ちませんでした。手も繋がない徹底振りで……」
そりゃそうだ。そこで寝たら最低な野郎だぜ。
「そのうちにあたしはこの会社に親のコネで入社することが決まり、忙しいのと、新しい彼氏を作るつもりで、だんだんタケちゃんのことを忘れていきました。
何といっても大手だし、将来有望な男の人がいっぱい居ると思ってたから、結構本気でがんばったんですよ?
だけど横浜支社で、何度か男の人と遊びに行きましたけど、やっぱりどこかしっくりこなくて…
心のどこかにタケちゃんと比べていたんですね、あたし。
そんなとき桐島主事の結婚式で部長を見て、部長のスピーチを聞いて……
あたしなんて言うか…すごく……すごく感動したんです。
こんな人に思われたらどんなに素敵だろうって」
『……あたし…部長のスピーチを聞いて感動したんです…こんな人を旦那様にできたら幸せだろうなって思って…』
以前緑川が言った言葉は、ただの口説き文句じゃなく、本気だったってことか。
「顔もいいし、背も高いしお金持ちだし。タケちゃんを見返してやれると思ったんです。『あたしはあなたと別れてこんな素敵なカレシができたのよ』って」
ふぅん。そう言うことね。まぁ緑川にとってその付加価値の方が大きいようだが。
俺は若干うんざりした気持ちでテーブルに頬杖をついた。