柏木さんは定時の6時を過ぎると早々と帰り支度を始めた。


「あれ?柏木さんもうお帰りですか?」


と佐々木が不思議そうに首を傾げてる。


いつもならここからもう一仕事っていう時間帯だ。


「ええ。今日は約束があるので」


俺の方をちらりとも見ない。見事な徹底っぷりだ。


まぁ、佐々木に変に勘ぐられてもイケナイから。


「佐々木。終わったらお前も帰れ」


「え~、何でですか?」


「今日は早帰りデーだ。俺も用があるんでね」


佐々木は柏木さんと俺とを見比べた。


「まさか……お二人、これからデートですか?」


顔を青くして佐々木が眉を寄せた。


ギクリ!佐々木、意外に鋭い奴。


「バッ…ちげぇよ!!」


俺は慌てたが、柏木さんは冷静に、


「違います。只でさえ鬱陶しいのに、会社の外まで部長の相手をする気にはなりません」


表情一つ変えずに淡々と言う柏木さん。


グサっーーー!!


言い訳だっとしても幾らなんでも酷すぎない??


って言うかこの妙に飄々とした対応は、まさかの本心!?


「そうですよね~。僕の勘ぐり過ぎでした」


佐々木がまぬけな顔で笑っているのを、俺は恨みがましく睨んでやった。