「うん、デート中なの。今から彼が家に招いてくれるって言うからお邪魔しようって。ケイさん、優しいから私の我が儘を聞いてくれて。ああ、聞かなくても優しいんだけど」

「ちょっ、ココロさんっ。アータ、いきなりなんてことを」


「二人は遊びに行くのかな? 私達、もう行くね。また話す機会があったら話そう」
 

「ケイさん行きましょ」彼の肩を叩いて私は行きましょうサインを送る。

突然自慢されてしまったことにケイさんは戸惑いながらも(というか照れているみたい)、ペダルを踏んで坂を下り始める。


呆気取られている二人から、「あのウジムシちゃんに彼氏」「先越されちゃったわね」と声が。
 

ふーっ、胸がスカッとした。

弄ろうとしたんだろうけど、先に自慢しちゃった。

うん、気持ちが良いや。
 

何がなんだか分かっていないケイさんは、とにかく照れながらハンドルを操作している。

「今日は不意打ちばっかりだ」

ブツクサ呟くケイさんに笑みを零し、後ろから首に腕を回す。

ギョッと驚くケイさんは危ないと声を上げるけど、自慢できた嬉しさと過去の自分を吹っ切れている嬉しさが勝ってその抗議を無視した。


ケイさんが私を好きになってくれたから、こうして私も誰かを好きでいることの大切さを知ることができているんだ。

気持ちが溢れかえる。


「ケイさんの家。まだですか?」


「まだっていうか、体勢が危ないっていうかっ。
コラ、ココロ、体勢を戻しなさいっ。危ないでしょーよ!

嬉しくないわけじゃないんだゲッホン、ゴホン…、こういうのは部屋でな」


照れ照れな彼にうんっと頷いて私は体勢を戻す。

やっぱり今日は不意打ちばっかりだとケイさんは呻いた。

照れている彼が可愛くてしょうがない。

でもケイさんはカッコイイ人だって誰よりも知っているつもり。

カッコイイ人っていうより、カッコつける人なんだけどね。


舎兄のため、チームのため、仲間のために全力で走る人なんだ。ケイさんって。
 


ケイさんの家は平屋で静かな住宅街にひっそりと身を潜めていた。

ゆるやかな坂を上った先にある一軒家で、彼曰くそんなに綺麗じゃないらしいんだけど、私の家も似たような造りだから汚いとは思わない。

寧ろ此処がケイさんの家なんだって胸がときめいてしまう。

自転車から降りた私はカゴから荷物を取り出し、車庫に自転車をとめにいったケイさんを待つ。

そして二人で家の中にお邪魔した。