「ええ?! デートさえもしないの? ただでさえ、二人、他校同士なのに?!」


頓狂な声音を上げる弥生ちゃんは、デートくらい良いじゃないか顔を顰めてくる。

日賀野さん達の喧嘩なんて、いつ終わるのか先も見えないというのに。

1年越しになるかもしれないじゃんか、それでもデートすらしないつもりなのかと詰問する彼女。


だってそれがケイさんとの約束なんだからしょうがない。
 

あんまりケイさんには負担を掛けたくないんだ。

彼は不良の間で名高い荒川庸一の舎弟、名の売れ始めた舎弟、周囲からも認められ始めている舎弟。その彼に彼女が出来た、なんて日賀野さん達に知られた利用されかねない。
 

喧嘩ができない彼は、私と成り行きで告白ムードを作ってしまった。
 

気持ちを伝え合う良い契機は掴んだと思う反面、彼は随分と迷っていた。私を特別な存在にするべきかどうかを。

両想いで踏み止まろうとしていたくらいなのだから、本当に苦悶していたのだと思う。

ヨウさんの舎弟をしているだけあって、肩書きのせいで巻き込まれる恐ろしさをケイさんは知っている。

私を親身に心配し、敢えて友達のままでいようとしていた姿は哀愁漂っていた。
 

そんな彼に特別な存在になりたいと言ったのは誰でもない私。

強くなりたいから特別な存在に置いて欲しいと願い告げたのは誰でもない、私、若松こころなんだ。


確かにケイさんと折角想いが通じ合ったんだから、女子高生らしく恋愛は楽しみたいけれど…、彼は不良の舎弟だってことを念頭に置いておかないといけない。

ただの喧嘩ならまだしも、今の喧嘩は因縁の籠もった対峙。

彼自身も深く傷付くであろう、終わりの見えない喧嘩。


向こうのチームにいるお友達のことで心を痛めているのに、私のことまで心を痛める。辛酸を味わうケイさんなんて、見たくない。


それにカッコつける彼のことだ。

喧嘩できないと分かっていても、全力で私を守ってくれるに違いない。
 

「なるほどな。ヨウに振り回されてきたことだけあって、ケイらしい選択だ。よく理解してるし妥当だ。ココロも、承知の上で…、付き合うって決めたんだな」