チラッとケイさんを流し目。
 
頭の後ろで腕を組む彼は、短くなっていく煙草の味を噛み締めながら空を眺めている。

親近感を抱く者同士として、ケイさんは私の憧れ要素満載。前向きだし、誰とでも気兼ねなく喋れるし、土壇場根性は凄まじいし。

ちょっとカッコつけさんだけど、ご愛嬌だと思う。


そんな人が私の彼氏だなんて、未だに信じられないことだったり。

不思議だなぁ、こうしてカレカノ関係になってるって。
 

「あ、そうだそうだ。
ココロに渡そうと思って鞄に入れっぱなしにしてたっけ。ちょい待っててな」


忘れてたとケイさんは角材から飛び降りて、自分の自転車に歩む。

「?」首を傾げる私の下にケイさんが戻ってきたのは数秒後。

重たそうな通学鞄を肩に掛けて、「よっこらせ」また角材の山に腰掛ける。

鞄を膝に置くとチャックを開けてガサゴソと中身を漁る。


そう時間も掛からず、あったあったとケイさんは茶封筒を取り出した。


中身を開けて、紙切れの一枚を私に差し出してくる。

反射的に受け取ってしまったけど、これは…あ!

私は目を輝かせてしまった。これ、映画の前売りチケット!

今話題の映画女子高生がマネジメントの理論を活用して野球のマネージャーをする、映画のチケットだ!
 

「母さん伝いの譲りものだけど、さ。渡しておくよ。でもこれで良かったのか?」
 

私は何度も頷く。

観に行くチケットを、ケイさんが渡してくれたことに私はついついご機嫌になってしまう。


今度の土曜日にデートしようって話になったのはケイさんのお母さんの映画のチケット話から。
 

何でもケイさんのお母さんのお友達さんが、前売りチケットを余分に買ってしまったらしくケイさんのお母さんに渡って、それでもってケイさんのお母さんがケイさんに「映画に行って来たら?」と、これをくれたそうな。

ケイさんのお母さんとは、ケイさんが入院している時にお会いした事があるんだけれど、凄く愉快で優しい人だった。

すぐに私達を公認の仲として認めてくれた、素敵なお母さん。