「ココロじゃんか」
目尻を下げてくるケイさんは、もう俺と話せそうか、とおどけ口調で話し掛けてくる。
ううっ、蒸し返されるとまた羞恥心が…、だけどその時間が勿体無い。
私は何度も頷いて彼と肩を並べる。
「どうして此処で一服してるんです? 中に入って一服すればいいのに。皆さん、中にいますよ?」
さっきの話題に触れられたくないから疑問を投げ掛けることにした。
私の率直な疑問に、「空を眺めたくてさ」ケイさんは右の人差し指で空を指差す。
倣って空を仰ぐと今日も青空が隅から隅まで広がっていた。
まるで青絵の具を溶かしたような深い深い、でも何処か透明感のある空は心を躍らせてくれる。
青空にぽっかり浮かぶ白羊は微々な変化を繰り返し、気付けばスーッと空へ消えてしまっていた。
空を見上げていると本当に不思議だと思う。
「チャリに乗ってたらさ。風や空が気持ち良くて…、何となく一服したくなったんだ。あーあーあー、超悪になったよなぁ、俺も」
どうしよう、喫煙者まっしぐらなんだけど。
そろそろ自分で煙草を購入する時期かな、ぼやくケイさんは静かに紫煙を吐いた。
空気に溶け消えていく紫煙を目で追いながら、
「立派な不良ですね」私は彼をからかった。
「ほんとにな」ケイさんは軽く笑声を漏らした。
「舎弟をしているからかも、親にばれたらシバかれること間違いないや」
なーんて言うケイさんだけど、あまり気に留めてなさそう。
なってしまったものは仕方がないって顔をしている。
―…ケイさんはいつもそう。
なってしまったから仕方がない、じゃあどうにかしよう、そういう風に考える人だ。
私だったら延々と悩むのに、ケイさん、喫煙のことも、舎弟のことも、なってしまったからには仕方が無い。
んじゃ、どうにか乗り切れる策を編み出そう。
悪く言えば能天気、良く言えば前向きに物事を考える。
深く物事を考えない人なのかもしれない。
羨ましいなぁ、私なんてずーっとウジウジ考え込んでしまうタイプなのに。