幕末怪異聞録




「し、時雨?」


原田も自分の目を疑うかの如く目を瞬かせた。


「……。」


「時雨さーん?」


藤堂の遺体を何も言わず見つめる時雨は些かおかしく見えた。


「な、なぁ。もしかして……。」


「ん?何だよ。」


「時雨、今平助と話してるんじゃねぇの?」


「——!」


原田の突飛押しもないことに、永倉は「そうかもしれねぇ!」と原田の顔を見た。


そんなことを話していると、時雨は急に藤堂の刀を抜き取り、そのままその場を後にしようとした。


何が起こっているのか分からない二人は、慌てて時雨に駆け寄った。


「おい時雨!平助の刀取ってどうすんだよ!」


「どうもしない。あいつの意志のままにこれを届けるまでだ。」


そう言うと時雨は二人を省みることなく闇夜に消えて行った。


その声色には怒りと悲しみがおり混じったものだった。


そんな時雨の様子が分かった二人はジッと時雨の去った先を見つめるしかできなかった。


「——さぁ、帰るぜ。」


「……。

あぁ…。」


こうして油小路にて伊東甲子太郎の他、藤堂平助、服部武雄、毛内有之助の三名が討死した。



「——こうやって友を斬らなきゃならねぇのかよ……。」



そして、小さな不満という芽が大きくなりつつあった。