幕末怪異聞録



野菜を眺めていた時雨はパッと顔を上げた。


「———おじさん、この白菜をください。」


「へ、へえ。おおきに……。」


赤ら様に変な目で見られると流石の時雨も少し気にするらしく、店主の表情を見て、内心「やはり馴染みの店に行くべきだったか。」と思っていた。


気分がやや下がったが、そんなことを気にしても何の解決にならないと思い、笑顔で白菜を受け取った。


「ありがとう。」


それだけ言って、さっさと店を後にした。



店を覗きながらゆっくり歩いていたら、知った顔がふと見えた。


そちらに顔を向けると、御陵衛士に入った藤堂が何やら浮かない顔をして一人で茶を飲んでいた。


久しく見なかった顔であったし、嫌な夢の当事者でもあったため、生きて会えたことに嬉しくなった時雨は藤堂の方へ足を向けた。


「平す——……!!」

ガシッ!!

「——!?」


藤堂に駆け寄ることはできなかった。


時雨は急に口を塞がれ、引っ張られるように路地裏へ引きずり込められた。


(——な、何だ!?)


あまりの事に気を張りつめ抑えきれない殺気を放った。


すると、頭の上から笑い声が聞こえてきた。


「くっくっくっ……!本当に面白い嬢ちゃんだな~。この状況で殺気を放つのか。時雨ちゃんよ、一体どんな生活をしているんだ?」


「———ん?その声……あんた、伊藤か?」


そう言うと腕の力が緩み、振り返るとやはり長州藩邸に忍び込んだ時に会った、あの助平野郎がそこにいた。