突然言われた言葉に狼牙は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。


そして、時雨はもう一度はっきりと言った。


「狼牙、お前は江戸へ———」


「——っざけんじゃねぇ!!」


時雨の言葉を遮った狼牙の目にはたくさんの涙が溜まっていた。


今まで一緒にいたのに何故帰れと言うのか、分かってしまったのだ。


昨日とは全く雰囲気の異なる時雨。


また視えたのだろう。


新選組の未来が……。


これからの日の本が……。


「時雨ぇ、俺にお前を護らせてくれよ……。」


その言葉に時雨は目を見開き、そして目を細めて笑った。


「やはり成長したな、狼牙。」


「時雨……。」


「だが、私を護るなど、百年早い!お前は江戸へ帰って私をしっかり護れるくらい成長しろ!!」


「しぐ……!?」


次の瞬間、時雨はギュッと狼牙を抱きしめた。


「お前は私にとって弟の様なものであり、大切な存在だ。だから、お前を死なせる訳にはいかないんだ。」


「やっぱり——!!」


バッと突き放すように離れた時雨は自分の荷物を取り、窓から飛び降りた。


「じゃあな!狼牙!!」


そう言って京の街へ消えて行ったのだった。