「完全にはぐらかしたな……。」


「……うるせぇ。」


確かに話を逸らしたが、言わないといけないことだった。

時雨は少し口を尖らしたが、コンが捨てられた子犬の如く潤んだ瞳で見ていたため、時雨は困ったように頭をかいてコンに目をやった。


「コン、私はお前の母にはなれんが、そうだな……。母の様に思ってもいいぞ?」


その言葉にコンは笑顔になった。


「お前、母ちゃんいねぇのか?」


コンが笑顔になったところだというのに狼牙はまた無粋な質問を投げかけた。

当然、時雨の鉄拳がお見舞いされたのは言うまでもない。


『母ちゃんはおいらが産まれてすぐに死んだんだって父ちゃんが言ってた。』


「そうだったのか……。」


時雨はコンをギュッと抱きしめた。


「困ったことがあればまた私を尋ねるといい。」


『うん!』


元気良く返事をしたコンの目には涙が溜まっていた。


「もう帰らないと父ちゃんが心配するぞ?父ちゃんに心配かけたらいけないからな。」


『うん!また、会えるよな?』


「当たり前だ。」


そう言ってふんわり笑った時雨。


こうしてコンとは別れ、夜が明けていったのだった。





『坂本龍馬暗殺事件』 【完】