幕末怪異聞録




部屋を出た丁度その時、一階から声が聞こえてきた。


「ーー何やこれは!!どないなっとるんや!!」


悲鳴にも感じられるその声は、狼牙らが呼んだ医者が発したものだった。


時雨は少し足速に一階を目指した。


「やっと来たか。

そこの巨漢はもう死んでるが、上にまだ息のある奴が一人いる。」


「何やて!?」


時雨の言葉を聞いた医師は、慌てて二階へと駆け上って行った。


それに着いて行こうとする狼牙とコンを止め、外へ出た。



「ーー何で中の様子を見せてくれないんだよ!」


「……。」


やはり納得のいかない狼牙は、時雨に噛み付いた。

しかし、時雨の目で何を言いたいのか分かった狼牙は、ぐっと押し黙ってしまった。


「ーー少し場所を変えるぞ。」


そう言って歩き出した時雨にただついて行くことしかできない二人だった。




少し歩いた処に小さな神社があったため、其処へ入った。


石段に腰掛けた時雨は真っ先にコンへ視線を向けた。


それは敵意にも感じられる程の強いものだった。


「ーーコン、お前は何者だ?」


核心にも近いその問いにコンは、時雨が“それ”に近い何かに勘付いていると分かり、少し思案するように唇を噛んだ。


そして、逃げ道がないのだと認識したのか、観念したように薄く口を開いた。


「ーーーおいらは…………。」


その紡がれたコンの言葉に狼牙は目を丸くしたが、時雨の表情は眉一つ動かぬ程変わらなかった。