幕末怪異聞録



時雨の忠告にピクリと反応した狼牙。


「何で?」


時雨は歩く速度を緩め、狼牙の顔を見た。


「私が近江屋の場所を聞いた時、あいつ、何て言ったか覚えているか?」


「いつもこの辺りで遊ぶから知らねえって言ったよな?」


「そうだ。それで何か気付かないか?」


時雨の問いに首を傾げた狼牙。

盛大にため息をついた時雨は「まだまだ爪が甘い。」と言って、手を腰に当てた。


「いいか?此処は壬生から目と鼻の先だ。壬生と言えば新選組だろう?奴等のことだ、龍馬のことを血眼になって探していただろうな……。そんな虎穴に入るようなこと……。龍馬ならやり兼ねんが、あの中岡が許さんだろうから壬生にほいほい現れる訳がなかろう?
コンは良く遊んでもらったと言ったが、些か嘘くさい。あの子は何か隠している。杞憂で済んだらいいんだかな。狼牙、足元掬われんように気を付けろよ。」


いつになく真剣な時雨に、狼牙はコクリと頷いた。


「で、まだあるんだが、実はーーーー………。」



より一層声を潜めた時雨。


その内容を聞いた狼牙は目をパチクリさせ、頭を掻いた。


「ーーそれが本当なら俺らが動く意味なんてねぇだろ。」


「いんや、コンが何故私に近づいたのか、本当の理由が何なのか知る必要があるだろ?」


「まぁ、確かにそうだけど……。」


「兎に角!女将に聞いて来い。」


「って、やっぱり俺に行かすのかよ!」



こうして刻一刻と坂本龍馬暗殺の時が迫っていたのだった。