*短編小説*花びらを胸に





彼を失った今



どんな言い伝えでもいい…――――





もう一度彼にこの想いを届けたいのです。






冬の風が容赦なく彼女を痛めつけるなか、そっと川へと歩いていきました。





あの頃とはまったく別物ように、この川はスカイブルーに輝いていました。





『……    』





そこにはいない…――――


帰ってくるはずがない彼の名を呟きました。




『  』『  』『  』




何度も…何度も…――――。





ただ彼の名が声によって流れるだけで、その想いはきっと彼には届いていないでしょう。




彼女は知っていました。




でも…

子供が歌っていた言い伝えとはいえ、それが本当なら…――――――否、本当であってほしい。





『待ってて…』




今は、待っていてほしい…――――


春になったら、 と彼女は呟きました。