「なんでもすぐに顔に出る」と
矢沢先輩に言われたけれど、
本当にそうだったみたいで、

「何かあったの?」

と、春樹も優にいちゃんも
すごく心配してくれた。

いずれはバレることだし、
矢沢先輩と別れたことは
まだ話さないでおこうと思う。

私の中で
気持ちの整理がついてからでいい。

食欲も無くて、
部屋でごろごろしていたら
母が私の大好きな
牛筋カレーを作ってくれた。

食べないつもりだったけど、
カレーの匂いに負けて食べてしまった。

ダイニングで、
両親と
春樹と
優にいちゃんと
五人でカレーを食べた。

カレーはすごくおいしくて、
おかわりまでした。

食事なんて喉を通らないと思ったのに、
食卓についてみれば、
普通に食べることができた。

両親は特に優しいわけでもなく
普段どおりで、
春樹と優にいちゃんは
牛筋の取り合いなんかしていて。
最後はやっぱり優にいちゃんが
負けてあげて。

私以外の世界が
映画の回想シーンみたいに
スローモーションで動いている気がして。

こんななんでもない風景を、
大人になってもずっと
覚えているんだろうなと思った。