「千里、おい千里」

売店の入口で待っていた八千代が、
お弁当箱を持って近付いてくる。

「今の、天草様じゃないか?」

「あまくささま……?
うん、天草先輩だけど」

「知り合い? いいなー。
今度紹介してくれ」

どうして天草先輩を知っているのか、
八千代に尋ねると、
先輩の描く絵のファンなのだという。

そう言えば、優にいちゃんも
天草先輩の絵を誉めていた。

中庭でお弁当を食べながら、
八千代が天草先輩について
熱く語ってくれた。

一年生の時に、市美展、県展、二科展、
全部に入選したこと、
校長室と職員室前に
天草先輩の絵が飾ってあること。
学校始まって以来の
奇才だと言われていること。

つぶれたクリームデニッシュを食べながら、
天草先輩の言葉を反芻していた。
「本気で何かを欲しいと思ったことないだろ」
という言葉は、的を射ているような気がして
胸に突き刺さったままだった。