電車の先頭車両の、
運転席のそばに三人で立って、
優にいちゃんの話を聞いた。

「ちょっと前のことだけど……」

言葉を捜しながら、優にいちゃんが
小さな声で言う。

「天草に告白されて……」

「マジで!?」

春樹が興味深そうに、話に食いついてくる。
優にいちゃんがちょっと迷惑そうな顔をする。

「天草はすごくいい絵を描くし、
人として嫌いではないんだけど、
女性として付き合うにはどうかなあ、とか」

「いちいち、遠まわしな言い方すんなよ」

「その、断る口実で
『好きな人がいる』って言ってしまって」

どこかで聞いたことが
あるような話だ。

「まさか、好きな人って千里のこと?」

「いや、口実だから!
本当にただの口実だよ。
天草があんまりしつこく問い詰めるから
つい、千里ちゃんの名前を」

優にいちゃんが、
私の方を向いて言い訳をする。
顔が少し赤くなっている。

「天草先輩、すごく美人だったよ。
優にいちゃんとお似合いだと思うけど」

私の言葉に優にいちゃんは

「あいつ、怖いんだよ。
平気で部員の絵をけなしたりするし。
俺の手には負えそうもない」

と、ため息をつきながら言った。