唇にキスを、首筋に口づけを



私は声がした方に視線を向けた。


やはり、バチリと彼の美しい瞳と目があった。



また、ドクンと音がした。


私は黙りこくるしかなかった。



何か、言わないと。



けど、どうしよう。



うまく思考回路がまわらない。



声が喉でつっかえて外部に出て行かない。



私は、目を見開くことしかできてない。




すると彼からため息が聞こえた。


「すみません、知人に似ていたもので。」


眉を垂れ下げて笑顔を作っている。


そして人違いでしたね、


と続けた彼。



あ。



私が反応しなかったから、私が彼を忘れていると思われてる。



忘れてないのに。



意識していたくらいなのに。



「わ、忘れてません!」


少し大きい声が出てしまった。



わあ、


咄嗟に自分のくちを両手で押さえた。




「この、ハンカチの」



私はさっきよりも声量をおとしつつ、


そして先程さりげなくテーブルに置いたハンカチを持ち上げた。




すると彼の顔がパッと明るくなった。



周りに花が見えるレベルで。



「やっぱりあなただったんですね!」



嬉々とした声で言った彼。



そしてまた続ける。



「会えて嬉しいです!」



私もはい、と返事をした。



すると何故か沈黙が流れた。




あら、気まずい。



私はうっ、とつまった。



返答をミスったな・・・。



「あ、なんかすみません。


仕事中なのに・・・。」




沈黙を破りたかったのか、彼がボソボソと言った。



「いえ、


こちらこそなんかすみません。


あ、冷めるので、召し上がってください。」


今度は営業スマイルではなく、本当に笑顔があふれだした。



私はそう言って彼に背を向けた。




ああ、すごいかも。



会えちゃったよ。




かなり、私の心はフワフワしている。