唇にキスを、首筋に口づけを



私は絶句した。



思わず言葉を失なってしまった。



私の目の前の人を見て。



数秒たったころ私はハッとした。



接客、しないと。



向こうは何も覚えていない様子だし。



私の目の前には、私を以前助けてくれた人・・・。



ショッピングモールの駐車場でも出くわした人・・・。



脳裏に青色のハンカチが浮かび上がった。


「1名様でよろしいでしょうか。」


「はい」



私は席に案内してメニューを渡す。



正直、頭がわけわかんなくて、ボーッとしていたけど。



私は厨房に注文されたものを伝えに行く。



厨房で伝達し、私は腰から崩れた。




わあ、わあ、・・・。



どうしよう、どうしよう。



心臓がどくん、どくんとうるさい。



でも、彼は私を覚えていない。



だから、緊張する必要もないのかも。



そうだ、そうだよね。



私はフーッと息を吐いた。



大丈夫、大丈夫。



借りたハンカチをエプロンのポケットに入れ込んだ。




料理を置いたら、ついでにハンカチもおこう。



「もってってー。」


「あ、はい」



私はその声にハッとした。



大丈夫、ていうか何でこんなに気にしてんだ、私。



大したことじゃないんだから。



私は料理を持ち、足を一歩踏み出した。



「お待たせいたしました」



私は営業スマイルを浮かべ、料理をテーブルに置いた。



ハンカチ、ハンカチ。



「ごゆっくりどうぞ。」



また笑顔をつくり、さりげなく、さりげなくテーブルにハンカチを置いた。



その時だ。



ぱし、



手首に謎の優しい圧迫。



え、



私は手首に視線をうつした。



・・・私の手首に誰かの手が巻きついてる。




誰かって、そんなの1人だけなんだけど。



「待って。」


聞き覚えのある声。



ドクン、心臓が大きく伸縮した。



「僕のこと、覚えてないかな?」