タクシー?
私は彼に視線を戻す。
そして急に押し付けられる何か。
「え?」
「乗ってってください」
ニコリ、笑う彼。
え、な、え?
私は押し付けられたものを見る。
・・・わわわ、
い、一万円札が三枚・・・!
「け、結構です!」
結構な大金だよね!?
彼、私と同じくらいの歳に見えるし・・・。
「女性が夜遅くに一人で歩いていたら危ないですよ。
さっきもそうですし。」
キッ、と目を光らせた彼。
眉毛もキリッとして見える。
「・・・いや、まだそんなに遅くないですし・・・」
多分9時にもなってない・・・。
「遠慮なさっているなら、
しないで下さい。」
そう彼はまた、真剣な顔で言う。
すると私の返答も待たずにタクシーに押し込まれた。
「え、え!?」
私は一人混乱する。
彼は落ち着いて運転手さんに、
彼女の家までお願いします。
と言った。
そして彼はひらひらと手を振った。
さっきとは打って変わって優しい微笑みを見せて。
バタン、としまるタクシーのドア。
「住所お願いできますか?」
運転手さんの淡泊な声。
あ、
・・・マジで、これでいいのか?
私は流れで住所を言った。
発進するタクシー。
窓を見れば、段々と遠くなる彼の姿。
いいのか、いいのか・・・?
見知らぬ人から助けてもらってその上タクシーまで・・・。
私、罰があたるんじゃない・・・?
・・・あ。
私がふと視線を下に向けた時。
見えた青色のハンカチ。
・・・しまった、握りしめたままだった・・・。
ってまあ、気づいていたとしても私の涙で濡れてるから返せないけどさ。
・・・一応洗って持っておこう。
これから絶対会わないだろうけど。
せめてもの恩返し。

