「うん。…電話も、すんな」
「ん。………じゃあ、」
「…うん」
「……また、ね」
「…うん」
いっちゃんの瞳の奥に、ウチがうつってる。
きっと今、ウチの瞳の中にもいっちゃんが入り込んでて。
…刻まれてればいいなぁって思う。
ちょっとでも多く、いっちゃんを向こうに持って帰れたらなぁって思う。
「あ…あの…」
おとうさんがおずおず、ものごっつ申し訳なさそうに、ウチといっちゃんの間に顔をはさんだ。
どっちに目線を合わすこともないまま、おどおど、目線を泳がせる。
「ええと、あのぅ……お、お別れの抱擁とか、ほら!…すっ、するんやったらしてええよ?」
「…………へ」
「その…っ、おとうさん目ぇつむっとくし!」
そう言いきって、これでもか!ゆうくらい力入れて目ぇつむってるおとうさん。
…力入れすぎて、顔うめぼしみたいなってるで。
「…………。」
「…………。」
「…もっ、もう終わった!?」
「うん、もうええからおとうさん。」
…いっちゃんの口元が、必死に笑いをこらえてる。
その顔とおとうさんのぽけーっとした顔見比べとったら、ウチまで笑いがこみあげてって。



