おとうさんはふうって息をはいて、ぐばーって吸って、またはいて。
真剣な顔で、おおげさなくらい、頭を下げた。
「娘を、ちょっとの間だけ、ください。」
──駅の構内。
ざわざわした空間に、おとうさんの堅い声。
中年のおっちゃんが、20代の若者に頭下げてそんなこと言いよるもんやから…行き交うひとみんな、ものめずらしげな視線をこっちに向けてくる。
いっちゃんとウチと、気をつけ!したまま目配せしあって。
「「ぶは……っ!!」」
…ちょうど一緒のタイミングで、吹き出してしもうた。
だってなぁ。
スーツきっちり着こんで、ネクタイしめて。
頭下げて、「娘さんをください。」って。
…ふつう、逆やろそれ。
おむこさんになる人が、お嫁さんになる人のお父さんにするもんやろ。



