「いっちゃん」
「…ん?」
「…うん。呼んだ、だけ。」
「………ははっ、うん」
「………」
「………」
「…なぁ、おれも呼んでええ?」
「…ふっ……うん、ええよ」
──みとも。
いっちゃんが呼ぶ"みとも"が、ウチ、いちばん好きや。
言葉ってむずかしいね。
言いたいことたくさんあるのに、あるはずやのに。
いざとなったら、全然出てきてくれへんのやね。
「…みとも」
いっちゃんの声が、とん、て胸の中に落ちていく。
それすらも貴重な気がして、ウチは一生懸命耳をすます。
「これからお互い、がんばって働いてなぁ」
「…うん」
「3年後くらい。」
「3年後?」
「うん、3年後。…みともに練りに練ったプロポーズしに行くから。」
「………」
「みともがいやや〜ゆうてもさらいに行ったるから」
…やから、待っとけ。
すぐ隣におるいっちゃんが言う。
22歳のいっちゃんが、22歳のウチに言う。
…3年後やったら、25歳?
25歳のウチらって、どんなんやろなぁ。



