「あっ!みとも、いっちゃん!!いっちゃんやでみともっ!!」
再び打席に出てきたいっちゃんを見て、嬉しそうにはしゃぐおとうさん。
「みとも…っ」
「〜もう、見ればわかるってば!!」
打席に入るいっちゃん。
ちょっと…ううん、だいぶ真剣な顔。
そのいっちゃんの表情に気を取られて、おとうさんがまたバランス崩して落下したのにも気付かんかった。
息をはくピッチャー。
観客もみんな、「がんばれ」を忘れてすっかり見入ってる。
構えられるバット。
足から胴体にかけて、ひねりが加わったライン。
赤い帽子の下。
いっちゃんの高い鼻先。
手のひらから、はじき出されるボール。
まっすぐ、まっすぐ。
下?上?
それとも――――、
口は、開いとった。
息を呑む暇もなかった。
音が耳に届くよりも先に、映像。白線。
白いボールが、空に舞い上がる。
…それは青い空に1つだけ散った、雲の破片みたいで。



