ボールに追いついた外野手が振り返る。
わーわーわー、いっちゃん!何してんの!?
外野から、2塁に向かって返ってくる送球。
いっちゃんが、姿勢を倒して思いっきりすべりこむ。
ズザーッ!!て音と、
パシィッ!!て音。
舞う砂ぼこり。
「──セーフっ!!」
空気を割る、判定の声。
立ち上がったいっちゃんのユニフォームは泥だらけで、鼻の頭もちょっとだけ茶色くなってて。
いっちゃんはその泥をぐいっとぬぐうと、満面の笑みで笑ってみせた。
拍手と歓声がわきおこる。
「うおっ!?」
おとうさんも興奮して跳び上がって、クーラーボックスから落下した。
…いっちゃんの目立ちたがり。
うん、あほ。でもちょっとかっこええ。
わー!やら、キャー!やら、賑やかにわきたつフェンス前。
よくよく見てみたら、応援の観客はほとんど女の子ばっかり。
──志波。
いっちゃんの名字が、ポンポンとところどころで飛び交っていた。
「…いっちゃんて、人気者なんやなぁ。」



