「俺、何もしてないよ。」

 海翔はその時小学五年生。声もまだ高かった。

「本当?」
「本当。俺がたまたま投げたら、川江に当たっただけで。」
 
 海翔は慌てて解釈している。

 わざとではないと伝えたいのだが。

「結局、やった・・・。」
「やっぱり、海翔兄ちゃんがやった。」

 流羽奈は球を丸めて、海翔に投げつけた。
 流羽奈の顔は、怒りに満ちていた。
 結局その球は、海翔に当たらなかった。

 だが、海翔には危機感を覚えた。

「桜、お願い、川江をなんとか。」

 あのころは、海翔は『桜』なんて呼んでいた。

 小学校低学年の時から、ずっと二人は一緒だった。

 お互いをよく知っていた。はずだった。


 桜は、海翔の思いは分かっていた。

 流羽奈に許しを請いてほしいと願っていた。

 さもなければきっと・・・っと思った瞬間。