「大丈夫、ですか」



近づいてみてわかったことだが、黒いかたまりはひとりの女だった。



黒いドレスにファーを羽織っているだけという、見るからに寒々しい格好。



女はもぞもぞ動いたかと思うと、突然ハッと顔を上げた。



「…寒い」



「え?」



「寒い」



酔っ払って眠っていたのかもしれない。



でも、この寒さでそれは危険だ。



こうして俺は、自分のコートを女の肩にかけ、きちんと話すこともままならない女を、自分の家へ連れ帰るはめになった。