バーがあるビルにはそれらしき看板は見当たらない。 正面に重厚な雰囲気の扉がひとつ、あるだけだった。 コソコソする必要などないのだが、なぜか他人に見られてはいけないような気がした俺は、周囲を気にしながら、人通りがなくなった隙にその扉に近づいて確かめた。 藍色に塗られた重そうな扉をよく見ると、店の名前が彫ってある。 【Bar GRANT】 グラント…― 「叶える、か」